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マクシム・ゴーリキイのひとおよびげいじゅつ
マクシム・ゴーリキイの人及び芸術
宮本 百合子
「婦人公論」1933(昭和8)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,075 字 · 30 页
彼女の独特な信心で美に感じやすいゴーリキイを魅したばかりではない。聴きてを恍惚させるほどの物語り上手であった。彼が屋根裏で、台所の隅で、祖母から聞いた古代ロシアの伝説、盗賊や順礼の物語は、みずみずしく記憶にきざみつけられたのみか、ゴーリキイの初期の創作のうちに反映しているほどである。
祖父はやがて染物工場を閉鎖した。伯父の一人は自殺し、一人は家を出て、気違いのように吝くなった祖父と五十年つれそった祖母との間に不思議な生活が始まった。祖父と祖母とは、茶、砂糖から、聖像の前につける燈明油まで、きっちり半分ずつ出し合って暮した。が、祖父は財産分配の時、祖母に家じゅうの小鉢と壺と食器とを分けただけなのである。祖母は昔ならったレース編を再びやり出した。ゴーリキイも、「銭を稼ぎはじめた。」
休日ごとにゴーリキイは袋をもって家々の中庭の通りを歩き、牛の骨、ぼろ、古釘などをひろった。またオカ河の材木置場から薄板を盗むことも(たまに)やった。それで三十カペイキから半ルーブリを稼ぎ、銭は祖母にやる。――この時代の仲のよい稼ぎ仲間とのほこりっぽい、だが多彩な生活の思い出を後年ゴーリキイは長篇小説「三人」