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マクシム・ゴーリキイのひとおよびげいじゅつ

マクシム・ゴーリキイの人及び芸術

宮本 百合子

「婦人公論」1933(昭和8)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,075 字 · 30 页

青空文庫

祖母さんのアクリーナがきくと、マクシムはひざまずいて云った。「俺達は結婚したいんだ。」りんごの樹のかげにかくれて、ワルワーラはのいちごのように体じゅうを真赤にして、何か合図して、眼に涙を一杯ためている。「あたし達はもうとうに結婚しました。あたし達は只婚礼をしなくちゃならないの」――。

ゴーリキイが生れた後まで祖父さんは二人の自由結婚を許さなかった。ニージュニの職人組合の長老をやり、染物工場をもったりしていた祖父は、自分の娘が一文なしの渡り者の指物師などと一緒になることを辛棒できなかったのである。

五つの時父はコレラで死に、幼いゴーリキイは母と一緒にニージュニへかえって祖父の家で暮すようになったが、この鋭い刺のある緑色の目をもった祖父の家の中の生活の有様は、到着第一日から幼いゴーリキイの心にうずくような嫌悪、恐怖、好奇心を湧き立たせ、類のない程多岐なゴーリキイの少年時代の第一歩をなした。一つ家の中には家内持ちの二人の伯父がいて、財産分配のことから祖父と悪夢のようにののしり合い、時には床をころげてなぐりあった。そうかと思うと大人まで加わって、半盲目の染物職人に残酷きわまるいたずらをしかける。