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マクシム・ゴーリキイのでんき
マクシム・ゴーリキイの伝記
宮本 百合子
幼年時代・少年時代・青年時代
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页
夜、カバン河の岸に坐り、暗い水の中へ石を投げながら、三つの言葉で、それを無限に繰返しながら彼は思い沈んだ。
「俺は、どうしたら、いいんだ?」
哀傷からゴーリキイはヴァイオリンの稽古を思い立った。劇場のオーケストラの下っぱヴァイオリンを弾いていたその先生は、パン店の帳場から金を盗み出してポケットへ入れようとしているところを、ゴーリキイに発見された。彼は唇をふるわし、色のない目から油のように大きい涙をこぼしながら、ゴーリキイに訴えた。
「さあ、俺を打ってくれ」
二六時中彼を不愉快にいら立たせるところのすべてに反抗したい希望が、静かに執拗につきまとった。空虚への反感が喉をつまらせるのであった。
この堪え難かった年の十二月の或る晩、ゴーリキイは雪の積ったヴォルガ河の崖によりかかりピストルを自分の胸にあてて、発射した。弾丸が肋骨に当ってそれた。彼は生きた。
我々読者に今日無限の示唆を与えるのは、ゴーリキイほどの強靭な天質と生活力とを持つ者でさえも、歴史の或る時期には自殺をしようとしたという一事実を踰えて、更に、人及び芸術家としてのゴーリキイが、自分のこの記念的経験をちゃんと短いながら一つの作品「マカールの生涯の一事件」