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マクシム・ゴーリキイのでんき

マクシム・ゴーリキイの伝記

宮本 百合子

幼年時代・少年時代・青年時代

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页

青空文庫

小さいゴーリキイは、この下宿人の暮しぶりに非常な好奇心を動かされた。彼はよく物置きの屋根の上に這い上っては、中庭ごしにその下宿人の窓の中の生活を観察した。

その部屋にはアルコール・ランプがあった。いろいろの色の液体の入った罎、銅や鉄の屑、鉛の棒などがあった。それらのゴタゴタの間で「結構さん」は、朝から晩まで鉛を溶かしたり、小さい天秤で何かをはかったり、指の先を火傷をしてうんうんとうなったり、すり切れた手帳をとり出して、それへ何かしきりに書き込んだりしている。

ゴーリキイは興味を押えられず、或るときお祖母さんに聞いた。

「あの人は何してるの?」

するとお祖母さんはこわい声で、

「お前の知ったこっちゃない、だまっていな」

と言い、おばあさんが奇妙に警戒するばかりでなく、家中の者、下宿人仲間まで揃ってこの毛色の変った下宿人を愛さなかった。みんな「結構さん」をかげでは嗤った。贋金つくり、魔法師、背信者だのと云って噂している。

ゴーリキイはだんだんこの「結構さん」と仲よくなった。ある晩、有名な物語上手である祖母の話を聞いているうちに、この「結構さん」は激しく涙を落しはじめ、興奮して長くしゃべった揚句、いきなり恥かしそうに、皆のいる部屋から出て行った。