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マクシム・ゴーリキイのでんき
マクシム・ゴーリキイの伝記
宮本 百合子
幼年時代・少年時代・青年時代
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页
彼の周囲には、泥酔や喧嘩や醜行やが終りのない堂々めぐりで日夜くりかえされている。だが、それらすべては何のために在るのだろう。
スムールイは、麦酒を飲みながらしみじみとゴーリキイに云った。
「お前がもう少し大きかったら、いろんなことを教えてやるのだがなあ。俺は人に語るべきものを持っている。俺は馬鹿じゃない。……マア、お前は本を読むこった。本の中には何でも必要なことがある。本はいいもんだ」
或る時はこうも述懐した。
「俺が金持だったら、お前を勉強に出してやるんだがなあ。無学な人間は牛と同じこった。軛をかけられるか、つぶしにされるんだ。それでいて御本人は尻尾を振るばっかりと来ていらあ」
スムールイの云う言葉は、ゴーリキイの感受性の鋭い心の中に落ちて、反響をおこし、その現実観察力と発育の肥料となった。
月が皎々とヴォルガとその岸の草原の上を照らしている深夜、皿洗いゴーリキイは船尾に坐りこんで、「涙が出そうになるまで夜の美観にうたれた。」汽船の後から長い綱にひかれて艀舟がついて来てる。それは赤く塗ってあり、甲板に鉄格子が出来ている。追放や苦役に決った囚人がそこに入れられて輸送されているのであった。