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マクシム・ゴーリキイのでんき

マクシム・ゴーリキイの伝記

宮本 百合子

幼年時代・少年時代・青年時代

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页

青空文庫

ゴーリキイは、手帖にいろいろのことを書きこむことを始めた。本からの感想、日々の出来事からの強烈な印象、又は詩などを。聖画屋の番頭はそれを知ると、この反り鼻の小僧を呼びつけて言いわたした。

「お前は抜萃帖か何か作ってるそうだが、そんなことはやめちまわなくちゃいけない。いいかね? そんなことをするのは探偵だけだ」

聖画店の主人は五留の給金を無駄にしないようにゴーリキイを働かした。ゴーリキイは主人が家具、敷物、鏡その他に執着し、こせこせとそれらを自分の家の中に詰め込むのが厭わしかった。市場の倉庫からサモワールだの箱だの鋏までくすねて来るのを見るのは厭しかった。その不恰好な置かたや塗料の匂いまで癪にさわった。彼のまわりでは主人が盗むばかりか、職人達が主人をちょろまかしている。ゴーリキイは何も所有したくなかった。ベランジェの小さい一巻とハイネの詩集ぐらいが彼の全財産である。

彼の周囲の人々はすべて、卑劣な奴も、智慧のある奴も狡い奴も、ゴーリキイに、彼等と一緒に住むことは出来ないと思わせるような人々ばかりであった。「何とか他に生きようはないものだろうか? 何処へ行ったらいいだろう。