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マクシム・ゴーリキイのでんき
マクシム・ゴーリキイの伝記
宮本 百合子
幼年時代・少年時代・青年時代
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页
というものである。そうパン焼のゴーリキイはきかされた。朗読がすすむにつれ暗闇の中で、
「愚論!」
と吼える者がある。「本読みは退屈な程長くつづく。」ゴーリキイは聴き草臥れる。それにもかかわらず、彼にはその挑戦的な鋭い言葉が気に入った。それらの云われていることは「容易に簡単に、説得的な思想に編みこまれて行く。」ところが、突然読みての声が遮られ、暗い朦朧たる部屋の中は憤怒の声に満たされた。
「裏切者!」
「ガアガア云う銅羅!」
「それは――英雄達によって流された血に痰を吐くようなもんだ」
「ゲネラーロフ、ウリヤーノフの処刑の後に……」
「諸君! 漫罵の代りに、真面目な、本質的な反駁をやる訳にはゆかんのか?」
その一夜から五十年近く経った今日顧れば、ゴーリキイの参加したこの空屋での会合、読まれたプレハーノフの論文「我等の意見の対立」こそ、ロシアの民衆の歴史にとって画期的な内容をもつ重大なものであったことが理解される。当時三十歳前後であったプレハーノフは、一八八五年、外国で出版されたこの論文によって民衆派の各分派が従来その根本的土台としていたところのロシアの現実には資本主義がない、発展しないという誤った観念を徹底的に覆した。