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マダムさだやっこ
マダム貞奴
長谷川 時雨
「婦人画報」1920(大正9)年2~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,999 字 · 53 页
文壇の人では秋田雨雀氏が貞奴心酔党の一人で、その当時早稲田の学生であった紅顔の美少年秋田は、それはそれは、熱烈至純な、貞奴讃美党であった。いまでもその話が出れば秋田氏はごまかさずに頷く、
「まったく病気のように心酔していたのですね、どんな事をしても見ないではいられなかったのだから」
はっきりとそう言って、古き思出もまた楽しからずやといったさまに、追憶の笑をふくまれる。わたしの眼にも美しかった貞奴のまぼろしが浮みあがって、共に微笑しつつ、秋田さんの眼にもまだこの幻は消えぬのであろうと思うと、美の力の永遠なのと、芸術の力の支配とに驚かされる。
その話は今から十五、六年前、明治卅五、六年のことかと思う。第二回目の渡航をして西欧諸国を廻って素晴らしい人気を得た背景をもって、はじめて日本の劇壇へ貞奴が現われたころのことであった。独逸では有名な学者ウィルヒョウ博士が、最高の敬意を表して貞奴の手に接吻をしたとか「トスカ」や「パトリ」の作者であるサルドーが親しく訪れたという事や、露西亜の皇帝からは、ダイヤモンド入りの時計を下賜されたという事や、いたる土地の大歓迎のはなしや、ホテルの階段に外套を敷き、貞奴の足が触れたといって、狂気して抱えて帰ったものがあったことや、貞奴の旅情をなぐさめるためにと、旅宿の近所で花火をあげさせ