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マダムさだやっこ
マダム貞奴
長谷川 時雨
「婦人画報」1920(大正9)年2~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,999 字 · 53 页
貞奴という日本新劇壇の最初にもった女優には、何処までも劇に没頭してもらいたかった。あの人の塁を摩そうと目標にされるような、大女優にして残したかった。こういうのも貞奴の舞台の美を愛惜するからである。
貞奴は癇癪持ちだという。その癇癪が薬にもなり毒にもなったであろう。勝気で癇癪持ちに皮肉もののあるはずがない。それを亡川上の直系の門人たちが妙な感情にとらわれて、貞奴の引退興行の相談をうけても引受けなかったり、建碑のことでも楯を突きあっているのはあまり狭量ではあるまいか。かつて女優養生所に入所した、作家田村俊子さんは、貞奴を評して、子供っぽい可愛らしい、殊勝らしいところのある、初々しくも見えることのある地方の人の粘ばりづよい意地でなく、江戸っ子肌の勝気な意地でもつ人で、だから弱々と見えるときと、傍へも寄りつけぬほど強い時とがあって、
「愚痴をいうのは嫌いだからだまっているけれども、何につけて人というものは深い察しのないものね」
などいってる時は、ただ普通の、美しい繊弱い女性とより見えないが、ペパアミントを飲んで、気焔を吐いている時なぞは、女でいて活社会に奮闘している勇気のほども偲ばれると言った。