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マダムさだやっこ

マダム貞奴

長谷川 時雨

「婦人画報」1920(大正9)年2~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,999 字 · 53 页

青空文庫

「奴が来ておりましたよ、大磯の濤竜館に……男見たような女ですね、お風呂で、四辺にかまわないで、真白に石鹸をぬって、そこら中あぶくだらけにして……」

そんなことを、あるおり、某華族の愛妾が言っていたことがあった。その語のなかには、すこし反感をふくんだ調子があったが、

「沢山な毛髪のなんのって、お風呂の中でといて、ぐるぐると巻いているのを見ると、ほんとにその立派なことって……」

彼女の傍若無人であったことには、好い心持ちではなかったらしいが、その容姿については感嘆していた。それはたしか彼女が十九位のことであった。

その後わたしが、漸く芝居のことなどもすこしばかり分りかけて来た時分に、芳町の奴が川上音二郎のおかみさんになるのだってというのをきいて、みんなが驚ろいている通りに、大層な大事件のようにきいていたことがあった。それは明治廿五年、奴が廿二歳のおりだと後で知った。なんでわたしが大事件のように耳にとめていたかというのに、前にも言った通り、芳町は近い土地であり、往来に浜田屋の門口も通ったり、自然と奴の名も聞き知っていたからであった。それに、浅草鳥越の中村座に旗上げをした、川上音二郎の壮士芝居の人気は素晴らしかったので――彼れが俳優として非凡な腕があるからというのではなく――書生が(自由党の壮士が)演説と芝居とを