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ミス・マシュウのしんしょくぎょう
ミス・マシュウの新職業
岡本 かの子
「三田文学」1932(昭和7)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,921 字 · 6 页
はライオンの角店で経済的で而も彼の華美な晩餐を食うときにばかり招かれてはかない食卓の装飾になって貰うことに適するとされていた。この役のために彼女も彼女の平凡な勤労生活から時たま愉快な夜を拾う。切りたての花。磨きのかかったフォークやナイフ。テーブル掛けの明るい反映、漠然とした男性への飽和。ジャズは父親の淋しい古典楽に馴れた耳の鼓膜をめちゃめちゃに乱打して彼女に近代的な痛快味を打ち突ける――だが、それが彼女の生活の実質をいくらかずつでも変えてくれるかと云うに決してそうでは無い。彼女はいつまでも依然として六仙均一店の売娘である。
なぜ父親は彼女に音楽をせめて食えるだけの職業として仕込んで置かなかったか? 彼女の身の上を考えるものに取ってこの問は必ず出て来る筈のものである。
ずっと前に彼女の記事が新聞に出たことがある。落魄した老音楽家の娘が六仙均一店で稼いでいる。この境遇がロマンス好きの英国の婦人読者へ報道するに価したのだ。
その記事のなかで同じ問いを記者が掲出した時、彼女はこう答えた。
「親が自分の娘の家庭教師をしていてはその生徒にも先生にも一片のパンをももたらしませんからね」