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モスクワにっきから
モスクワ日記から
宮本 百合子
新しい社会の母
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,232 字 · 11 页
――私死ぬんじゃないかしら……ほかの人はもうみんな分娩室へ行ったのに私一人こんなにして、あ、あ、あ……」
おかっぱの金色の髪がもしゃもしゃになって汗を掻いた額にくっついている。自分は困って、
「安心してらっしゃいよ。ね。ここにいれば大丈夫なんだから……気を落付けなさい」
医師は脈を見た。
「あなたは初産だから、ほかの人より時間がかかるんです……安心していらっしゃい」
そこへ、看護婦が入って来た。後からしずかに唸っている若い産婦の背中を撫ではじめた。
分娩室では、丁度今五人の産婦が世話をされているところだ。助産婦が敏捷に体と手とを働かしながら、単純な優しい、励ましの言葉をかけてやっている。激しい、生の戦場だ。
「――説明をおとしましたが、ここはみんな普通の、つまり健康な母親たちの棟です」
病室が三つある。産後のやつれは見せているが、一様に穏やかな満足げな目附をした母親たちが、カーテンで程よく外光を調節した寝台に休んでる。或るものは起きかえり、自分のダブダブな上っぱり姿を眺めて笑っている。
赤坊たちは、母親とは別室だ。ズラリと揺籃を並べ、小さい胸元に金の番号札をつけて眠ったり、欠伸をしたり、元気のいい赤坊唱歌(泣くこと)をやったりしてる。