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モノグラム
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江戸川 乱歩
「新小説」春陽堂、1926(大正15)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,034 字 · 22 页
そこで段々聞訊して見ますと、実に意外なことが分って来ました。田中が云うには、丁度その前の晩に、寝床の中でハッとある事を思い出したのだ相です。どういう訳で私を見覚えていたかについてですね。で、すっかり疑問が解けて了ったので、早速そのことを私に知らせようと思ったのだけれど、あいにく、その日は(つまり私が彼を訪問した日ですね)就職のことで先約があった為に、私の所へ来ることが出来なかったというのです。
そんな断りを云ったあとで、田中は机の抽斗から、一つの品物を取出して、「これを御存じじゃないでしょうか」というのです。見ると、それは艶かしい懐中鏡なんですね。大分流行遅れの品ではありましたが、なかなか立派な、若い女の持っていたらしいものでした。私が一向知らないと答えますと、
「でも、これ丈は御存じでしょうね」
田中はそういって、何だか意味ありげに私の顔を眺めながら、その二つ折りの懐中鏡を開き、鹽瀬らしいきれ地にはめ込みになった鏡を、器用に抜き出すと、そのうしろに隠されていた一枚の写真を取り出して、私の前につきつけたものです。それが、驚いたことには、私自身の若い時分の写真だったではありませんか。