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モノグラム

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江戸川 乱歩

「新小説」春陽堂、1926(大正15)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,034 字 · 22 页

青空文庫

ました。

すると彼は、やっと安心した様に、私の隣の僅ばかりのベンチの空間を目がけて近づいて来るのです。そうした連中の中では、私の風体は、古ぼけた銘仙かなんか着ていて、おかしな云い方ですがいくらか立勝って見えたでしょうし、決して外の人達の様に険悪ではなかったのですから、それが彼を安心させたと見えます。それとも、これはあとになって思い当ったことですが、彼は最初から私の顔に気がついていたのかも知れません。イエ、その訳はじきにお話ししますよ。

どうも私の癖で、お話が長くなっていけませんな、で、その男は私の隣へ腰をかけると、袂から敷島の袋を出して、煙草を喫い始めましたのですが、そうしている内に、段々、変な予感みたいなものが、私を襲って来るのです。妙だなと思って、気をつけて見ると、男が煙草をふかしながら、横の方から、ジロジロと私を眺めている、その眺め方が決して気まぐれでなく、何とやら意味ありげなんですね。

相手が病身らしいおとなし相な男なので、気味が悪いよりは、好奇心の方が勝ち、私はそれとなく彼の挙動に注意しながら、じっとしていました。あの騒がしい浅草公園の真中にいて、色々な物音は確に聞えているのですが、不思議にシーンとした感じで、長い間そうしていました。