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モノグラム

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江戸川 乱歩

「新小説」春陽堂、1926(大正15)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,034 字 · 22 页

青空文庫

お名前は」って聞きますと、それが変なんです。「私もさい前から一生懸命思い出そうとしているのですが、どういう訳か、出て来ません。でも、お名前を忘れる様な方じゃないと思うのですが」

「私は栗原一造て云います」私ですね。

「アア左様ですか、私は田中三良って云うのです」これが男の名前なんです。

私達はそうして、浅草公園の真中で名乗り合いをした訳ですが、妙なことに、私の方は勿論、相手の男も、その名前にちっとも覚えがないというのです。馬鹿馬鹿しくなって、私達は大声を上げて笑い出しました。すると、するとですね、相手の男の、つまり田中三良のその笑い顔が、ふと私の注意を惹いたのです。おかしなことには、私までが、何だか彼に見覚えがある様な気がし出したのです。しかも、それがごく親しい旧知にでも廻り合った様に、妙に懐しい感じなんですね。

そこで、突然笑いを止めて、もう一度その田中と名乗る男の顔を、つくづく眺めた訳ですが、同時に田中の方でも、ピッタリと笑を納め、やっぱり笑いごとじゃないといった表情なんです。これが外の時だったら、それ以上話を進めないで別れて了ったことでしょうが、今云う失業時代で、退屈で困っていた際ですし、時候はのんびりとした春なんです。