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ヤトラカン・サミはかせのいす

ヤトラカン・サミ博士の椅子

牧 逸馬

「新青年」博文館、1929(昭和4)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,010 字 · 26 页

青空文庫

裸体。

ピストルのあとと打撲傷。

殺害のうえ停泊中の汽船より投棄か。

即時バラピテ警察の活動。うんぬん。

授業時間問題のその後――コロンボ小学児童父兄会が朝の始業時間に関して、市学務課に陳情書を提出したことは本紙の昨夕刊が報道したとおりだが、同会実行委員はこれのみでは手ぬるしとなし、本日市庁に出頭口頭をもって、うんぬん。

――こうして新聞を読んでいる、日本人の旅行者の男へ、博学なヤトラカン・サミ博士は、はじめ日本人が梵語であろうと取ったところの、つまり、それほど自家化している、英吉利旦那のことばを、例のうす眠たい東洋的表現とともに、ふわりと、じつにふわありと投げかけた。

「旦那、ちょっと、手相を見さしてやって下さい。やすい。安価いよ――」

と。

5

ヤトラカン・サミ博士は、ひそかに人間の生き方を天体の運行と結びつけていた。

こんなぐあいに。

はるか西の方バビロンの高山に道路圧固機の余剰蒸気のようなもうもうたる一団の密雲が湧き起こった。

それが、白髪白髯の博識たちがあっと驚いているうちに、豪雨と、暴風と、鳥獣の賛美と、人民の意思を具現し、日光をあつめ、植物どもの吐息を吸い、鉱石の扇動に乗じて、いつの間にか、絢爛大規模な架空塔の形をそなえるにいたった。