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ヤトラカン・サミはかせのいす

ヤトラカン・サミ博士の椅子

牧 逸馬

「新青年」博文館、1929(昭和4)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,010 字 · 26 页

青空文庫

そうして、この、物理の懊悩と、天体の憂患と、犬猫の狼狽と、人知の粉砕のすぐあとに来たものは、ふたたび天地の整頓であり、その謳歌であり、ひまわりどもの太陽への合唱隊だった。が、そこに新生した蒼穹は、全く旧態をやぶったすがただった。白髪白髯の博識たちがあっとおどろいているうちに、山から山へ、いつの間にか脈々たる黄道の虹が横たわっていた。暗黒と光明の前表は、鹹湖にも、多島海にも、路傍の沼にも、それこそ、まるで水草の花のように浮かんで、なよなよと人の採取を待つことになった。これは、つまりは星が映っていたのだ。が、この新発見に狂喜した人々は、はじめて、希望をもって上空を仰いだ。そこには、あの架空塔の倒壊事件以来、羊や山羊や蟹や獅子や昆虫のたぐいに仮体して、山河に飛散していたもろもろの星が、すっかりめいめいの意味をもって、ちゃあんとそれぞれ天空の位置にはめ込まれていた。そしてそこから、さかんに予現の断片を投下しながら、彼らは一つにつながって、太陽と月輪の周囲を乱舞しだした。遊星の軌道は一定した。星は、かれらが一時逃避した無機物有機物によって、双魚座、宝瓶宮、磨羯宮、射手座、天蠍宮、天秤座、処女座、獅子宮、巨蟹宮、両子宮、金牛宮、白羊座、と、この十二の名で呼ばれることになった。