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ラジオざっかん
ラジオ雑感
寺田 寅彦
「日本放送協会『調査時報』」1933(昭和8)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,067 字 · 11 页
耳が悪いせいか、「かん」が悪いせいか、本物の演説を聞くのでも骨の折れるくらいであるから、完全でない機械で変形された音波の混乱の中から、変形されない元の波を読取ることはなかなか困難である。それを聞取ろうとする努力はかなりに頭を疲らせる。それで断念して聞かないつもりになっても、音の出ている限り注意を引かれない訳には行かない。いっその事全部分からないアラビア語ででもあればかえって楽であろうが、困った事には時々ところどころ分かる日本語であるからいけないのである。注意が自然と其方に向かうのを引戻し引戻しするための努力の方が、努めて聞こうとする場合の努力よりもさらに大きいかもしれない。
しかるに、これが音楽となるとそういう心配はないようである。楽器の音色がかなり違って聞こえても、管弦楽はやはり管弦楽として聞取られるし、長唄はやはり長唄として聞かれる。聞きたくなければ聞流している事も音楽ならばそれほど困難ではない。これは自分が音楽に対して素人であって、日本語に対して玄人であるためかもしれない。しかしまた人間の言語というものがあらゆる音響現象のうちで最も精妙を極めた機巧を具備したものだという事を意味するかもしれない。