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レモンのはなのさくおかへ
レモンの花の咲く丘へ
国枝 史郎
「レモンの花の咲く丘へ」東京堂書店、1910(明治43)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,016 字 · 142 页
女子 (頷き)そのような風をしたお方が、今日のお客様の中にお見えなされはしなかったえ。
使女A さあ、おりましたやら、おらぬやら(とBと顔を見合せる。主屋の方にて大勢の笑声)
女子 あの笑声の中に、そのお方の笑い声もまざっているのではあるまいか。
使女B (気を利かせ)一寸行って、そっと見て参りましょうか。
女子 こんに、そうしておくれなら、どんなに私は悦しいか知れぬ。
使女A さようなら二人で一寸行き、直ぐに見て参りましょう。(と二人の使女は左の口より小走りに退場。女子は二人の出て去りし方に向かい、暫時彳み、やがてそのままの姿にて寝台に腰をかけて首を垂れる。夕陽、女子の肩と横顔を照らす。静。(三分間)やがて、高殿の階段へ領主の一子、美しき青年姿を現わす。天才的熱情の容貌、高尚なる騎士の服装。片手に一束の深山鈴蘭の花を持つ。女子の階下に在るを見て足音を盗み、段梯を下り、女子の背後に彳む)。
公子 (静かなれども熱心の口調にて)日頃情無い貴女のことゆえ、私に逢いに来られたのではござりますまいが、一人でそのようにうなだれているのを見ると、何んとなく貴女が、私の所有のように思われます。