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レモンのはなのさくおかへ
レモンの花の咲く丘へ
国枝 史郎
「レモンの花の咲く丘へ」東京堂書店、1910(明治43)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,016 字 · 142 页
――神よ、正しき者に幸あれ!
領主は、凍れる棒の如くに気死して壁により、忠僕は天を睨み、やがて声を上げて泣き仆れます。噫! 幸福たらんとして不幸となり、楽しからんとして憂いを呼び、平和たらんとして、凶事動乱、潮のように湧き起ります。(と片手を高く差し上げ)、この諸々の喜怒哀楽が、霧に包まれた宝玉のように、水の中の王冠のように、煙の中の城のように、おぼろげに諸君の眼に映る時、諸君は無理の解釈をなされずに、有るがまま、見ゆるがまま、聞こえるがままにくみ取って戴きたい。(片手を下し、後方に静かに退場しつつ)如何にFなる魔法使いが、銀の竪琴に魔を呼ぶか、如何にレモンの花の咲く南方の国の人々が、燃え狂う恋路を辿り行くか、諸君はこの幕が開くと共に、残る方なく知ることが出来ましょう。(と一礼して退場)
第一場
領主の館の一室 正面に出入口ありて裏庭に通ず。裏庭を距てて静かなる湾あり、湾の対岸は削れるが如き絶壁にしてその頂上には古き白亜の音楽堂あり(但し之は背景なり)、出入口の左右に大いなる窓あり。窓には窓掛けなく自由に湾の風景を望み得べし。なお室の左右に出入口あり、左の口は主屋に通じ右の口は高殿に通ず。