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レモンのはなのさくおかへ

レモンの花の咲く丘へ

国枝 史郎

「レモンの花の咲く丘へ」東京堂書店、1910(明治43)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,016 字 · 142 页

青空文庫

……凶事の鉦が。

(青き燈火、以前の場所に点ぜらる)

使女B あれ青い灯が!

使女A 赤い灯の代りに点いている。

女子 ほんに青い灯が……どうしたと云うだろう、死んだ人の魂のために点ぜられる青い灯が……音楽堂に点いている。そして弔いの鉦がつき鳴らされ……。(と海を眺め)あれ、今まで見えていた水鳥の列が、どこへ行ったかもう見えぬ。

使女B (空を見上げ)そして怪しい雲も消えてしまいました。

使女A 死んだように影も形もなく消えてしまいました。(鉦なお鳴りやまず)

女子 まだ鳴っている、まだ鳴っている。

(玄関の方にて駒の蹄の音。嘶。やがて間もなく従者いそがわしく出場)

従者 お嬢様は此処においででござりましたか、今音楽堂で大変なことが出来致してござります。

女子 (従者を凝視し)今鳴っている弔いの鉦の音が、その一大事を告げているのではあるまいか!

従者 おおせの通りでござります。亡び行く魂を傷む鉦の音が、若様の横死を告げておるのでござります。

女子 えッ、若様の横死! 横死! (と寝台へ仆れる)

使女A 若様の横死!

使女B 死! 死!

従者 お驚き遊ばすは御尤でござりますが、唯今は驚いてばかりいる時ではござりませぬ。