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ロマネスク

ロマネスク

太宰 治

「青い花」1934(昭和9)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,725 字 · 37 页

青空文庫

夜、太郎は母者人のふところから音もたてずにころがり出た。ころころと土間へころげ落ち、それから戸外へまろび出た。戸外へ出てから、しゃんと立ちあがったのである。惣助も、また母者人も、それを知らずに眠っていた。

満月が太郎のすぐ額のうえに浮んでいた。満月の輪廓はにじんでいた。めだかの模様の襦袢に慈姑の模様の綿入れ胴衣を重ねて着ている太郎は、はだしのままで村の馬糞だらけの砂利道を東へ歩いた。ねむたげに眼を半分とじて小さい息をせわしなく吐きながら歩いた。

翌る朝、村は騒動であった。三歳の太郎が村からたっぷり一里もはなれている湯流山の、林檎畑のまんまんなかでこともなげに寝込んでいたからであった。湯流山は氷のかけらが溶けかけているような形で、峯には三つのなだらかな起伏があり西端は流れたようにゆるやかな傾斜をなしていた。百米くらいの高さであった。太郎がどうしてそんな山の中にまで行き着けたのか、その訳は不明であった。いや、太郎がひとりで登っていったにちがいないのだ。けれどもなぜ登っていったのかその訳がわからなかった。

発見者である蕨取りの娘の手籠にいれられ、ゆられゆられしながら太郎は村へ帰って来た。