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ウィタ・セクスアリス

ヰタ・セクスアリス

森 鴎外

「昴」1909(明治42)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页

青空文庫

それは例の未知のものに引かれる Neugierde である。

二台の車は大門に入った。霽波の車夫が、「お茶屋は」と云うと、霽波が叱るように或る家の名をどなった。何でも Astacidae 族の皮の堅い動物の名である。

十二時を余程過ぎている。両側の家は皆戸を締めている。車は或る大きな家の、締まった戸の前に止まった。霽波が戸を叩くと、小さい潜戸を開けて、体の恐ろしく敏速に伸屈をする男が出て、茶屋がどうのこうのと云って、霽波と小声で話し合った。暫く押問答をした末に、二人を戸の内に案内した。

二階へ上ると、霽波はどこか行ってしまった。一人の中年増が出て、僕を一間に連れ込んだ。

細長い間の狭い両側は障子で、廊下に通じている。広い側の一方は、開き戸の附いた黒塗の箪笥に、真鍮の金物を繁く打ったのを、押入れのような処に切り嵌めてある。朱塗の行燈の明りで、漆と真鍮とがぴかぴか光っている。広い側の他の一方は、四枚の襖である。行燈は箱火鉢の傍に置いてあって、箱火鉢には、文火に大きな土瓶が掛かっている。

中年増は僕をこの間に案内して置いて、どこか行ってしまった。僕は例の黒羽二重の羊羹色になったのを着て、鉄の長烟管を持ったままで、箱火鉢の前の座布団の上に胡坐をかいた。