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ウィタ・セクスアリス
ヰタ・セクスアリス
「昴」1909(明治42)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页
僕の抗抵力を麻痺させたのは、慥に僕の性欲であった。
僕は霽波に構わずに、車を言い附けて帰った。小菅の内に帰って見れば、戸が締まって、内はひっそりしている。戸を叩くと、すぐにお母様が出て開けて下すった。
「大そう遅かったね」
「はい。非常に遅くなりました」
お母様の顔には一種の表情がある。しかし何とも仰ゃらない。僕にはその時のお母様の顔がいつまでも忘れられなかった。僕は只「お休なさい」と云って、自分の部屋に這入った。時計を見れば三時半であった。僕はそのまま床にもぐり込んでぐっすり寐た。
翌日朝飯を食うとき、お父様が、三輪崎とかいう男は放縦な生活をしているので、酒を飲めば、飲み明かさねば面白くないというような風ではないか、若しそうなら、その男とは余り交際しない方が好かろうと仰ゃった。お母様は黙ってお出なすった。僕は、三輪崎とは気象が合わないから、親しくする積ではないと云った。実際そう思っていたのである。
四畳半の部屋に帰ってから、昨日の事を想って見る。あれが性欲の満足であったか。恋愛の成就はあんな事に到達するに過ぎないのであるか。馬鹿々々しいと思う。それと同時に僕は意外にも悔という程のものを感じない。