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ウィタ・セクスアリス
ヰタ・セクスアリス
「昴」1909(明治42)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页
行く先は独逸である。
独逸人の処へ稽古に行く。壱岐坂時代の修行が大いに用立つ。
八月二十四日に横浜で舟に乗った。とうとう妻を持たずに出立したのである。
*
金井君は或夜ここまで書いた。内じゅうが寝静まっている。雨戸の外は五月雨である。庭の植込に降る雨の、鈍い柔な音の間々に、亜鉛の樋を走る水のちゃらちゃらという声がする。西片町の通は往来が絶えて、傘を打つ点滴も聞えず、ぬかるみに踏み込む足駄も響かない。
金井君は腕組をして考え込んでいる。
先ず書き掛けた記録の続きが、次第もなく心に浮ぶ。伯林の Unter den Linden を西へ曲った処の小さい珈琲店を思い出す。Caf※(アキュートアクセント付きE小文字) Krebs である。日本の留学生の集る処で、蟹屋蟹屋と云ったものだ。何遍行っても女に手を出さずにいると、或晩一番美しい女で、どうしても日本人と一しょには行かないというのが、是非金井君と一しょに行くと云う。聴かない。女が癇癪を起して、m※(アキュートアクセント付きE小文字)lange のコップを床に打ち附けて壊す。それから Karlstrasse の下宿屋を思い出す。