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ウィタ・セクスアリス

ヰタ・セクスアリス

森 鴎外

「昴」1909(明治42)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页

青空文庫

日本人の群がいつも行っている処である。そこの常客に、稍や無頼漢肌の土地の好男子の連れて来る、凄味掛かった別品がいる。日本人が皆その女を褒めちぎる。或晩その二人連がいるとき、金井君が便所に立った。跡から早足に便所に這入って来るものがある。忽ち痩せた二本の臂が金井君の頸に絡み附く。金井君の唇は熱い接吻を覚える。金井君の手は名刺を一枚握らせられる。旋風のように身を回して去るのを見れば、例の凄味の女である。番地の附いている名刺に「十一時三十分」という鉛筆書きがある。金井君は自分の下等な物に関係しないのを臆病のように云う同国人に、面当をしようという気になる。そこで冒険にもこの Rendez-Vous に行く。腹の皮に妊娠した時の痕のある女であった。この女は舞踏に着て行く衣裳の質に入れてあるのを受ける為めに、こんな事をしたということが、跡から知れた。同国人は荒肝を抜かれた。金井君も随分悪い事の限をしたのである。しかし金井君は一度も自分から攻勢を取らねばならない程強く性欲に動かされたことはない。いつも陣地を守ってだけはいて、穉い Neugierde と余計な負けじ魂との為めに、おりおり不必要な衝突をしたに過ぎない。