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ウィタ・セクスアリス
ヰタ・セクスアリス
「昴」1909(明治42)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页
誰やら逸見に何か歌えと勧めた。逸見は歌い出した。
「雲のあわやから鬼が穴う突ん出して縄で縛るよな屁をたれた」
甚句を歌うものがある。詩を吟ずるものがある。覗機関の口上を真似る。声色を遣う。そのうちに、鍋も瓶も次第に虚になりそうになった。軟派の一人が、何か近い処で好い物を発見したというような事を言う。そんなら今から往こうというものがある。此間門限の五分前に出ようとして留められたが、まだ十五分あるから大丈夫出られる。出てさえしまえば、明日証人の証書を持って帰れば好い。証書は、印の押してある紙を貰って持っているから、出来るというような話になる。
盲汁仲間はがやがやわめきながら席を起った。鰐口も一しょに出てしまった。
僕は最中にも食い厭きて、本を見ていると、梯子を忍足で上って来るものがある。猟銃の音を聞き慣れた鳥は、猟人を近くは寄せない。僕はランプを吹き消して、窓を明けて屋根の上に出て、窓をそっと締めた。露か霜か知らぬが、瓦は薄じめりにしめっている。戸袋の蔭にしゃがんで、懐にしている短刀のをしっかり握った。
寄宿舎の窓は皆雨戸が締まっていて、小使部屋だけ障子に明がさしている。