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ウィタ・セクスアリス
ヰタ・セクスアリス
「昴」1909(明治42)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页
その時は絹のハンケチに詩でも書いて遣るのである。
裔一の処へ行くうちに、裔一が父親に連れられて出て、いない事がある。そういう時に好く、長い髪を項まで分けた榛野に出くわす。榛野は、僕が外から裔一を呼ぶと、僕が這入らないうちに、内から障子を開けて出て、帰ってしまう。裔一の母親があとから送って出て、僕にあいそを言う。
裔一の母親は継母である。ある時裔一と一しょに晴雪楼詩鈔を読んでいると、真間の手古奈の事を詠じた詩があった。僕は、ふいと思い出して、「君のお母様は本当のでないそうだが、窘めはしないか」と問うた。「いいや、窘めはしない」と云ったが、彼は母親の事を話すのを嫌うようであった。
或日裔一の内へ往った。八月の晴れた日の午後二時頃でもあったろうか。お長屋には、どれにも竹垣を結い廻らした小庭が附いている。尾藤の内の庭には、縁日で買って来たような植木が四五本次第もなく植えてある。日が砂地にかっかっと照っている。御殿のお庭の植込の茂みでやかましい程鳴く蝉の声が聞える。障子をしめた尾藤の内はひっそりしている。僕は竹垣の間の小さい柴折戸を開けて、いつものように声を掛けた。