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ウィタ・セクスアリス

ヰタ・セクスアリス

森 鴎外

「昴」1909(明治42)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页

青空文庫

奥さんは目も鼻も口も馬鹿に大きい人である。そして口が四角なように僕は感じた。

「僕は裔一君が大好です」

「わたくしはお嫌」

奥さんは頬っぺたをおっ附けるようにして、横から僕の顔を覗き込む。息が顔に掛かる。その息が妙に熱いような気がする。それと同時に、僕は急に奥さんが女であるというようなことを思って、何となく恐ろしくなった。多分僕は蒼くなったであろう。

「僕は又来ます」

「あら。好いじゃありませんか」

僕は慌てたように起って、三つ四つお辞儀をして駈け出した。御殿のお庭の植込の間から、お池の水が小さい堰塞を踰して流れ出る溝がある。その縁の、杉菜の生えている砂地に、植込の高い木が、少し西へいざった影を落している。僕はそこまで駈けて行って、仰向に砂の上に寝転んだ。すぐ上の処に、凌霄の燃えるような花が簇々と咲いている。蝉が盛んに鳴く。その外には何の音もしない。Pan の神はまだ目を醒まさない時刻である。僕はいろいろな想像をした。

それからは、僕は裔一と話をしても、裔一の母親の事は口に出さなかった。

*

十五になった。

去年の暮の試験に大淘汰があって、どの級からも退学になったものがあった。