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ウィタ・セクスアリス

ヰタ・セクスアリス

森 鴎外

「昴」1909(明治42)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页

青空文庫

古賀は某省の参事官になって、女房を持って、女房の里に同居して、そこから役所へ通っている。児島はそれより前に、大阪の或会社の事務員になって、東京を立った。それを送りに新橋へ行ったとき、古賀が僕に語いだ。「僕のかかあになってくれるというものがあるよ。妙ではないか」これは謙遜したのではない。児島に比べては、余程世情に通じている古賀も、さすが三角同盟の一隅だけあって、無邪気なものである。僕は妙とも何とも思わなかった。

僕にも縁談を持って来るものがある。お母様の考では、縦い洋行をさせられるにしても、妻は持って置く方が好いというのである。お父様には別に議論は無い。そこでお母様が僕にお勧なさるが、僕は生返詞をしている。お母様には僕の考が分らない。僕は又考はあっても言いたくない。言うにしても、頗る言いにくいような気がする。お母様は根気好くお尋なさる。僕は或日ついつい追い詰められて、こんな事を言った。

妻というものを、どうせいつか持つことになるだろう。持つには嫌な奴では困る。嫌か好かをこっちで極めるのは容易である。しかし女だって嫌な男を持っては困るだろう。生んで貰った親に対して、こう云うのは、恩義に背くようではあるが、女が僕の容貌を見て、好だと思うということは、一寸想像しにくい。