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ウィタ・セクスアリス

ヰタ・セクスアリス

森 鴎外

「昴」1909(明治42)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页

青空文庫

懐剣を持っていそうなと云うのが、お母様には頼もしげに思われるのである。そこで随分熱心に勧められる。安中も二三度返詞を聞きに来る。しかし僕はついつい決答を与えずにしまった。

程経てこのお嬢さんは、僕の識っている宮内省の役人の奥さんになられたが、一年ばかりの後に病死せられた。

*

同じ年の冬の初であった。

来年はいよいよ洋行が出来そうだという噂がある。相変らず小菅の内にぶらぶらしている。

千住に詩会があって、会員の宅で順番に月次会を開く。或日その会で三輪崎霽波という詩人と近附になった。その霽波が云うには、自分は自由新聞の詞藻欄を受け持っているが、何でも好いから書いてくれないかと云う。僕はことわった。しかし霽波が立って勧める。そんなら匿名でも好いかと云うと、好いと云う。僕は厳重に秘密を守って貰うという条件で承知した。

その晩帰って何を書いたら好かろうかと、寝ながら考えたが、これという思付もない。翌日は忘れていた。その次の朝、内で鈴木田正雄時代から取っている読売新聞を見ると、自分の名が出ている。哲学科を優等で卒業した金井湛氏は自由新聞に筆を取られる云々と書いてある。