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ヴアン・ダインのさくふう
ヴアン・ダインの作風
平林 初之輔
「改造 第一二巻第一一号」1930(昭和5)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,370 字 · 5 页
そのかわり、第一頁から犯人があがるまで全体が伏線のようなもので、どの一頁、どの一行、登場人物のどんな一言一行でも、漫然と読んでいるわけにはゆかない。犯罪に関係のないことは書かないというのが彼の主義である。それでいて、いっけん犯罪とまるで関係のなさそうなこと、関係があるとすれば、互いに矛盾していて、どうにも論理を辿ってゆけないような事柄を彼は、精緻に、ぎしぎしと詰めこんでいる。
『グリーン殺人事件』の中で、素人探偵ファイロ・ヴァンスは、犯跡捜索の手がかりとなるような事項を二百近く列挙している。二百近くである。しかも、それがいっけん互いに矛盾しあっているのだ。大抵の探偵小説では、手がかりは二つか三つ、せいぜい五つか七つである。それを彼は二百も列挙して、その間の関係を考えるのだ。そのうちのどれを省略しても手がかりは不十分ということになる。
私はかつて、彼の作品を一つ翻訳したことがあるが、紙数の都合で、約四分の一ほど切り捨てねばならなかった。普通の探偵小説では、切りすてるということは容易である。冗漫な描写や、わき道へそれたところなどはかえって捨てて圧縮した方が効果的になる場合すらある。