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ひとつのあいじょう

一つの愛情

豊島 与志雄

「新小説」1949(昭和24)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,635 字 · 22 页

青空文庫

私は悲しくなりました。

――――

先生はどのようなお正月をお送り遊ばしましたことでございましょう。私のお正月はつまりませぬ。どこへも出掛ける気がせず、ぼんやり物思いに沈んでおりました。

先生のお手紙が今日もまいりませぬ。苦しく切なくてたまりませぬ。私はどうしてよいのかわかりませぬ。自分のことも何もかもわけがわかりませぬ。頭が痛うございます。胸がくるしゅうございます。

この前、失礼なお手紙書きました。それがお気に障って、もうお手紙下さらないのでございましょうか。私はどうしたらよろしゅうございましょう。この手紙に御返事下さいませ。どのようなお手紙でもかまいませぬ。

私は先生をお想い申上げてはいけないのでございましょうか。悲しみに泣くことさえ滑稽なのでございましょうか。何もかもわかりませぬ。苦しくて切なくてたまりませぬ。この世が糠のように味気のうございます。

――――

私は世俗の生々しさを、そのまま心と体に受入れる力がございませぬ。きりかかすみのようにはかないもの、なんだか自分がそのようなものの気のされる時がございます。

現世以外の或る無形なものの中に、そっと住んでいたい気が致されます。