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ひとつのかんそう

一つの感想

宮本 百合子

「テアトロ」1937(昭和12)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,230 字 · 7 页

青空文庫

俳優が一つの役を客観的な芸術の価値として創造して行く困難さは容易なものではない、そのことは実に理解されます。一つの端役でさえ、真面目な俳優は一度より二度目の時と、役柄のつかみ方、端役としての必然性の理解の点で成長してゆきます。そういう苦心を感じることの出来ない一面的な批評を、座談会では、望ましくないものと批評されています。これも尤もであると思います。しかし、同じ座談会でシュワイツァの死に方についての批評が話題になった時、宇野重吉氏はそれに対し、ああいうことは前から言われていた、あれ分ってるよ、いろいろ新手を考えているうちにお終いになったと感想を述べています。演技の独自性の評価が強く求められているこの座談会として、そういう問題があの程度の、謂わばむこう意気で過ぎていることが私の注目をひいた次第です。

芸といえば、素朴な印象にこだわるようであるけれども、「群盗」の初日に滝沢氏の演じられた弟の独白の場面で、舞台の一隅に置かれた枝蝋燭立てから一本の燃えているローソクが舞台の上に落ちました。そこは貴族の室内である。弟は陰険奸悪な陰謀者である。彼は一人で室内を行きつ戻りつしながら、古典劇らしく自身の悪計を独白しているのですが、例の舞台の上に落っこって目の前で燃えているローソクには全く目もくれない。