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ひとつのめばえ
一つの芽生
宮本 百合子
「新日本」1918(大正7)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,627 字 · 29 页
やがてその蝋燭も消えてしまった。真暗闇のうちで私はすくむような心持になりながら、黙ってはいるが気味の悪いに違いない弟の手を握って、堅唾(かたず)を飲んで坐っていた。
生れて始めて、こんなにひどい嵐に遭ったので、私はほんとうに度胆(どぎも)を抜かれて、何を考えることも思うこともできないような心持になった。
ただ怖(こ)わいというだけをはっきり感じながら、小さくなっていると、いつともなくまるで思考の対照を失っていた心のうちに弟のことがズーッと拡がり出した。
それも、彼のどのことを考えるというのではなく、彼――道男――という名によって総括されている彼全体の感じが、漠然と浮み上って来たのである。
すると、その彼の感じは暫くの間、外と同じように暗い心の表面で揺れるようにしているうちに、だんだんその周囲だけがほんのりと明るんで来たと思うと、何かもっとずうっと力の強い別な心持がそれに加わって来るのを感じた。そして、やがてそれはどうだろうかなという確かな意味を持つ危惧の念となったのである。
もちろん、彼の病気はどうだろうかなと思ったのである。けれども、それに続いて起った感じは、純然たる絶望だったのに自分は、思わずハッとした。