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いちのくらさわしょうめんのとうはん

一ノ倉沢正面の登攀

小川 登喜男

「山岳 二六の三」1931(昭和6)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,722 字 · 12 页

青空文庫

空はどんより曇っており、霧は昨日よりも低く岩壁の上に垂れ下がっていたものの、ともかく岩の様子を調べようと思い、飯を済ませると直ぐ天幕を出た。

沢石伝いに約三十分ほど行くと、右から小さい沢が落合い、そこから狭い岩床となる。その所を右岸の人の踏んだ跡を通って過ぎると、沢は再び石が累積し幾分広くなって、右岸から急な沢(一ノ沢)が落込んでいる。そしてそのすぐ上手において、既に雪渓の下端にぶっつかった。夏でも雪があるという事はかつて成瀬岩雄氏から聞いてはいたが、高々六、七百メートルのこの辺にこのような大残雪を見出した事は意外であったし、また嬉しくもあった。

雪渓の下端は洞窟のように融け込み、大きな口を開いてのしかかっているので、いずれかの岩壁を搦んで、すこし上から降りなければならない。両岸はともに草の混った急傾斜である。自分たちは右を登り、念のためロープを付けて雪渓へと下った。冷い朝の微風は心地よく頬をなぶる。時々前面の岩壁を見上げながら、堅雪の上をポツポツ登って行くと、やがて衝立岩の真下辺りで、二ノ沢の落込む少し上で、雪渓はくびれたようになって幅一米半ほどの裂罅が雪渓を上下に切り裂いている。