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せんきゅうひゃくさんじゅうよねんどにおけるブルジョアぶんがくのどうこう
一九三四年度におけるブルジョア文学の動向
宮本 百合子
「文学評論」1934(昭和9)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,731 字 · 32 页
としんみり述懐しているのである。父が破産するに及んで月給取りになった久内は、こうもつぶやいている。「むかし自分の頭を占めて離れなかった雑多な思想を思い浮べてみることもあったが、それらはことごとくからまり合った一連の網となって、頭上はるかな高い海面でただ揺れ動いているかのように見えるだけだった」そして、月給日など「裏町の小路をのっそりと歩いたり、なんかガスのように下方をはい流れているうつらうつらとして陰惨な楽しみに酔う自身の姿に気がついて、なるほど世に繁茂する思想の生え上った根もとはここなのかと、はっと瞬間目醒めるように眼前の空間の輝きわたるのを意識した。けれでも、そのたびに『いや、眠れ、眠れ』と、彼は自分にきかす子守唄をうたうのである。」
私どもはこのような行文を読んで、これはまことに正宗白鳥の小説の中の文章ではないのかと、おどろいてそれが横光の作中にあることを考えなおす次第である。
久内はかかる気持で生きつつある男なのである。このように沈下した精神状態は、心理学の教科書によらずとも、およそ外界の事件に対して共感、同情のひき起され難いものであることは明らかではないかと思われる。