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せんきゅうひゃくさんじゅうよねんどにおけるブルジョアぶんがくのどうこう

一九三四年度におけるブルジョア文学の動向

宮本 百合子

「文学評論」1934(昭和9)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,731 字 · 32 页

青空文庫

得るものでないことなどを指摘したのであった。

生活そのものにつかみかかって来るような必然性に欠けた、インテリゲンチアの知的自慰にすぎぬ不安の文学が、当然の結果として夢想しているように強烈な、ヨーロッパ的立体性をもった内容の新しい心境文学を創り出すことができないでいる間に、いい加減に残されていたリアリズムの高唱、明治文学再評価がかえって実際の実を結び、ブルジョア文学の上に、本年度の特徴をなす一現象が現れた。それは、明治文学の記念碑的長篇「夜明け前」を『中央公論』に連載中の島崎藤村はもちろん、永井荷風、徳田秋声、近松秋江、上司小剣、宮地嘉六などの諸氏が、ジャーナリズムの上に返り咲いたことである。

このことは、ブルジョア文学の動きの上に微妙な影響を与えたばかりでなく「ナルプ」解散後のプロレタリア文学にもある反響をあたえた。それについてはのちにふれることとして、ちょうど前後してある意味ではいわゆる文壇を総立ちにさせた一作品が『文芸』に発表された。龍胆寺雄の「M子への遺書」という小説である。

「M子への遺書」はいわゆる文壇の内幕をあばき、私行を改め、代作横行を暴露し、それぞれの作家を本名で槍玉にあげたことを、文学的意味ではなく、文壇的意味において物議をかもし出したのであった。