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ひとりふたやく
一人二役
江戸川 乱歩
「新小説」春陽堂、1925(大正14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,740 字 · 14 页
相談を持込む親戚とてもないのだ。幸い、夫が多額の金を残して行ったので、その方の不自由は感じなかったが、そうかといって、じっとして居る訳には行かぬ。こんな時、あの方が来て下すったら。きっと彼女はそう思ったに相違ない。丁度そこへ、仮想の男になり済したTが、ヒョッコリとやって来た、最初は、細君、その男をTだといって聞かなんだが、Tの友人が訪ねて来ても、まるで話が合わなかったり、(それはTが予め頼んだこの芝居の脇役なのだ)仮装の男の身許が明かになったりしたので(これもTが拵えて置いたのだ)つい、彼等が全く別人であることを信ずる様になった。これが、何かそうする理由でもあったのなら、いくら何でもだまされはしないのだろうが、T自身の心持を外にしては、まるで理由というものがないのだ。まさか、こんな馬鹿馬鹿しいお芝居が演じられようとは、誰にしたって、思いも寄らないからね。Tの細君は案外易々とだまされたのも、これは無理もないよ。
間もなく、彼等は住所を換えて同棲することになった。無論名前もTではなくなった。お蔭で、僕等Tの友人は、かたくお出入りをさし止められたものだ。