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いっぽんのはな

一本の花

宮本 百合子

「改造」1927(昭和2)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,709 字 · 55 页

青空文庫

そのはずみを捕えたように、

「あなたは変ってるね」

大平が云った。

「あなた、本当にまた細君になる気持はないんですか」

「あなたはいかが?」

「ふーむ」

大平はうなって、然しはっきり云った。

「ないな」

よほど間を置いて、

「それが、だが自然なんだろうな、一方から云えば」

大平は椅子の腕木に片肘をつき、その上へ頬杖をついていた姿勢を改めて、腕組みをした。彼はそのままやや久しく沈吟していたが、急のその顔を朝子の方へ向け、

「まさか発菩提心という訳じゃありますまいね」

「そんなことありゃしないわ。ただ……」

「なに?」

「……私の心持ん中で、もう結婚生活、すっかり完結した気がするのよ。また、同じことを別にして見たいと思わないだけ」

彼等は、幸子の邪魔にならないように、初めっから小声で話していたが、このとき、朝子は異様な閃光が、大平と自分との低い、切れ切れな会話の内に生じているのを感じた。変に心を貫通する苦しい心持で、彼女は身動き出来なかった。大平は、一層低い声で、正面を見据えたまま、やっと聞える位に云った。

「――変りもん同士で、面白くやってゆけると思うんだがな……自由に……」