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いっぽんのはな
一本の花
宮本 百合子
「改造」1927(昭和2)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,709 字 · 55 页
言葉にすれば『苦しいぞ、だが、なかなか悪くない』朝子はそんな心持で、切ない自分の心の、二重の染め分けを眺めた。
朝子が、夫を失ったのは二十四のときであった。彼女は近頃になって、元知らなかった多くのことを、男女の生活について理解するようになった。彼女の中に、半開であった女性の花が咲いた。
若し今まで結婚生活が続いていたら、自分はこのように細かに、何か木の芽でも育つのを見守るように心や官能の生長を自分に味うことが出来たであろうか。朝子はよくそう思い、世間並に考えれば、また当時にあっては、朝子にとっても大きな不幸であった不幸を、ただ不運とばかりは考えなかった。女一人の生長。――自然はその女が夫を持っていようといまいと、そんなことに頓着はしていない。時が来れば、花を咲かせる。――自然は浄きかな――
然し、朝子は大平を愛しているのではなかった。彼のは、朝子が再び結婚を欲しない意味とは全然違う。ただ面倒くさい位の心持から、消極的自由を保っていることも判っていた。彼にすれば、悪い心持はせず一年余知り合った朝子が、ひとりで、自由で、ちょっと面白くなくもなさそうなのに不図心づき、何か恋心めいたものを感じたのであろう。