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いっぽんのはな
一本の花
宮本 百合子
「改造」1927(昭和2)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,709 字 · 55 页
紺絣の着物を着た、頭の大きい男の児が、素足へ草履をはいて、久保の傍へ来て立った。
「さ、こちらの先生に御挨拶なさい」
子供の肩へ手をかけ、自分の身に引き添えた。素直にされるままになっているが、三白眼のその男の児が久保を愛しても、なついてもいないのは、表情で明らかであった。芸当を強いるようで、朝子は、
「およしなさいよ」
と止めた。
久保は、去りたそうにしている児の肩を押えたまま、なお、
「今村さん、先生の云うことは何でもきき分けるわね」
などと云った。
朝子は、彼女の部屋へ戻りながら、
「子供、もっと放っといてやらなけりゃ」
と云った。
「愛想のいい子供なんて拵えたって、下らなかないの」
久保は、家庭のない、健康のない、慰めのない、自分の生活の苦痛を、持ち前の強情さに還元して、その力で子供も同僚も押して行くらしく思えた。久保はいろいろな手段で蒐集した藤村の短冊など見せた。
本館の三階に、相原の部屋があった。朝子はそこで小一時間話した。
相原は、世間で重役風を形容する恰幅であった。ただ笑うと上唇の両端が変に持ち上って、歯なみよい細かい前歯と齦とがヒーンとすっかり見えた。