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いちまいのきっぷ

一枚の切符

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1923(大正12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,503 字 · 27 页

青空文庫

若しその紙片に捺してある日附印を見なかったら、何の疑も起らなかったのであろうが、博士の為には幸にも、その日附印が、私の眼に何かの啓示の様に焼付いたのである。大正――年十月九日、即ち事件の直ぐ前の日の日附印が。

私は五六貫目は大丈夫あった所の、その石塊を取りのけて、雨の為に破れ相になっていた紙片を拾い上げた。それがPL商会の受取切符であったのだ。そして、それが私の好奇心を刺戟したのである。

さて黒田氏が、現場に於て見落した点が三つある。

その内一つは、偶然私に恵まれた所のPL商会の受取切符であるから、これを除くとしても少くも二つの点に於て、粗漏があったことは確かである。が右の受取切符とても若し黒田氏が非常に綿密な注意力を持って居ったならば、私の様に偶然ではなく発見することが出来たかも知れないのである。というのは、その切符が下敷になっていた石というのは、博士邸の裏に半ば出来上った下水の溝の側に、沢山ころがっている石塊の一つであることが一見して分るのであるが、その石塊が唯一つ丈け遠く離れた線路の側に置かれてあったということは、黒田氏以上の注意力の所有者には、何かの意味を語ったかも知れないからである。