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いちまいのきっぷ

一枚の切符

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1923(大正12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,503 字 · 27 页

青空文庫

斯ういう足跡は跛足で、斯ういう足跡は盲目で、斯ういう足跡は妊婦でと大いに足跡探偵法を説いている。興味があったら昨日の赤新聞を読んで見給え。

話が長くなるから、細い点は略するとして、その足跡から黒田刑事が苦心して探偵した結果、博士邸の奥座敷の縁の下から、一足の、問題の靴跡に符合する短靴を発見したんだ。それが、不幸にも、あの有名な学者の常に用いていたものだと、召使によって判明したんだ。その他細い証拠は色々ある。召使の部屋と、博士夫妻の部屋とは可也隔っていることや、当夜は召使共は、それは二人の女であったが、熟睡していて朝の騒ぎで始めて目を覚し、夜中の出来事は少しも知らなかったということや、当の博士が、当夜めずらしく在宿して居ったということや、その上、靴跡の証拠を裏書きする様な、博士の家庭の事情なるものがあるんだ。その事情というのは、富田博士は、君も知っているだろうが、故富田老博士の女婿なのだ。つまり夫人は家つきの我儘娘で痼疾の肺結核はあり、御面相は余り振わず、おまけに強度のヒステリーと来ているんだ。其処に面白からぬ夫婦関係が醸成されつつあった事は、何人も想像し得るじゃないか。