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さんにんのそうせいじ
三人の双生児
海野 十三
「新青年」1934(昭和9)年9、10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,806 字 · 87 页
そしてとうとう妾は永久に故郷の所在を父の口から聞く術を失ったのであった。それから後ずっとこの方、故郷はお伽噺の画の一頁のように、現実の感じから遠く距ってしまったような気がする。
幸いに父が持って歩いていたトランクの中に、相当多額の遺産を残して置いてくれた。それは主として宝石と黄金製品とであったが、父が海外で求めて溜めていたものであろう。その遺産故に妾を世話する人もあって、こうして東京の地に大きくなることが出来たのであった。いま妾は至極気楽に見える生活をしている。数年前には、話が出来て聟をとったけれど、彼は二年ばかりして胸の病気で針金のように痩せて死んでしまった。それからこっち妾は気楽に見える若い有閑未亡人の生活をつづけている。再縁の話も実は蒼蠅いほどあるのではあるが、妾は一も二もなくこれをお断りしている。結婚生活なんて、そんなに楽しいものではないからである。それにこの節は、結婚などということよりも、もっともっと気にかかることがあって、その方へすっかり精力を引よせられているので、男のことなんか考えている余裕がないのである。気にかかることというのは、もちろんこれまでにお話したとおり、生死不明の妾のはらからを探しあてることが出来るかどうかということである。