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さんじゅうろくねんまえ

三十六年前

森下 雨村

「別冊宝石 四十二号」岩谷書店、1954(昭和29)年11月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,864 字 · 6 页

青空文庫

よりは一段お高くとまっていたわけである。

すると折返して作者から、読んで海外作品と伍して遜色がないと思うなら、「新青年」へのせてほしい。他の雑誌へはご免だ、と相当手ごわい、自信たっぷりの手紙がとどいた。

机の中から、封もきらない原稿がとり出された。「二銭銅貨」と「一枚の切符」がそれであった。筆者は江戸川乱歩、アラン・ポーをもじったものであることはいうまでもない。早速、目をとおしたぼくの驚きも諸君の想像にまかせる。

これが日本人の創作だろうか。日本にもこんな作家がいるであろうか。ただただ驚嘆の目を見はるばかり、内心では、なにか外国の作品にヒントを得たものではあるまいかという懸念もうかんだほどの驚きであった。

新しい彗星発見の慶びをわかちたい気持は、そのまま名古屋の小酒井不木博士に速達となって原稿が廻送された。小酒井君からも慶びにみちた折紙附の返事があったことはいうまでもない。まるでドストイェフスキーの処女作がヴェリンスキーに発見されたと同じような話である。

小酒井君は「新青年」のもっとも有力な支持者であった。十五巻の不木全集に知られるとおり、博識多才、病いを養いつつも、専門の研究をつづけ、その余力を探偵文学と犯罪科学の研究にそそぎ、「新青年」