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さんじゅうねんごのせかい

三十年後の世界

海野 十三

「少年読売」1948(昭和23)年3~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,140 字 · 137 页

青空文庫

そのときだった。正吉が隊長の腕に飛びついたのは。

「隊長さん。あの月人は、ぼくのおじの毛利博士だと思います。だから、手荒なことはしないようにして下さい。」

正吉のことばは、隊長をおどろかすのに十分であった。

「なに、あれが毛利博士だって。それが、どうして君に分る。」

「そういう気がしてならないんです。それにああして戸を叩く格好が、おじに違いないと思うんです。中へいれた上で、よく調べることにしてください。」

「だが、もしほんとうの月人だったら、困ったことになるよ。そのとき君の立場がなくなるが、いいかね」

「ええ、いいですとも。ぼくは自分の責任をとります」

正吉は思い切ったことをいった。

それというのも、さっきカンノ博士の説明を聞いてからこっち、なんだかおじの毛利博士がまだ生きているような気がしてきたのだ。実はあのとき正吉は、カンノ博士の説をあまり信じないようなことは、いったものの。

「隊長。あの月人の姿をした者は、正吉がいうとおり、たしかにわれわれと同じ地球人ですよ。ああいう戸を叩く仕草は、地球人独特の仕草です。月人なら、あんなことはやらないでしょう。ですから、戸口を壊して侵入するつもりなら、体当りするとか、すごい道具を持ってくるとか、もっと大げさなことをやると思いますよ」