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さんじゅっさい
三十歳
「文学界 第二巻第五号」1948(昭和23)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,211 字 · 32 页
私はすでに「いづこへ」の女を通して、矢田津世子の女体を知りつくし、蔑み、その情慾を卑しんでいた。矢田津世子も、何らかの通路によって、私の男体を知りつくしていたに相違ない。
私たちは、慾情的でもあった。二人の心はあまりに易々と肉体を許し合うに相違なく、それを欲し、それのみを願ってすらいた。それを見抜き合ってもいた。
お互の肉慾のもろさを見抜き合い、蔑み合う私たちは、特にあの人の場合は、その蔑みに対して、鉄の壁の抵抗をつくって見せざるを得なかったであろう。二十七のあの人は、気軽に二人だけの愉しい旅行を提案することができたのに、そして、なぜ、あのとき、それを実行しなかったのであろうか。惜しみなく肉体を与えるには、時期があるものだ。矢田津世子はそれを呪っていた。その肉体に、憎しみや、卑しめや、蔑みの先立っている今となっては、あまりに残酷ではないか。
矢田津世子が、それをハッキリ言ったのは、この日であった。
下心を知りあって、そのためにフミキリのつかなくなった私は、よけいに苛々ジリジリと虚しい苦痛の時間を持たねばならなかった。だから私が、出ましょう、とうながして、私の部屋へ行きましょう、と誘うと、矢田津世子はホッとした様子であった。