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さんがいばんれいとう

三界万霊塔

久生 十蘭

「富士」1949(昭和24)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,716 字 · 39 页

青空文庫

「お忘れはないでしょう。わたしコックスです」

「あ、コックス君」

愛想のよさに釣りこまれて思わず握手をしてしまったが、どこで逢った青年か思いだせない。見たような顔でもあり、そうでないようでもある。コックスのほうは深尾がおぼえているものときめこみ、長い脛を倒すようにして椅子に掛けると、まだ少年の悌のある優しい口元に微笑をうかべながら、勢いこんでしゃべりだした。

「わたくし、トオキヨオへ着くとともに、あなたの名前、友達に言いましたら、すぐ、わかりました。あなたが、こんな有名なひとになっているとは、わたくし考えておりませんでした」

「君はたいへん日本語がお上手だが、どこで習ったのかね」

「わたくし、ツラギのキャンプの隊長をしているとき、日本人に習いました」

ツラギ……畜生、あいつなんだ。対馬の伜から材料を貰い、マライタのゴタゴタを書いた「ポート・ダーヴィン・ジャアナル」の新聞記者だ。さっき戸田もいっていたが、あの記事にはたしかにマックスと署名してあった。

失敗ったと思うと、急に心が波立ち、顔色が変るのが自分にもわかった。

「神の如き一撃」とでもいうべきか。山崎と対馬の伜にたいする心の準備は完全無欠にやっておいたが、よもや、こんなやつがやってくるとは想像もしなかった。