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さんりょうきょう

三稜鏡

佐左木 俊郎

(笠松博士の奇怪な外科手術)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,347 字 · 42 页

青空文庫

私は、西谷の方からそれを云い出しさえしたら、二人を何時でも、一緒にしてやろうと思っていた。併し、西谷は、気の小さな男で、そんなことを云い出せる男ではなかった。唯その心の中だけで悶々と思い煩っているのであった。

私の仕事場の窓上の、崖の上の杜の樹木の緑が日に日に深くなって、仕事場の台の上や人形の肌などにまで淡い緑の影がうらうらと動くような季節になると、西谷は酷く暗鬱になって来た。極度の神経衰弱らしかった。学校では最早、解剖などもやっているらしく、机の前に坐ったまま半日も解剖刀を視詰めていたり、夜遅くまで附属病院の方にいて来ることなども珍らしくなかった。階下へ降りて、私の仕事場へ来ても、何一つ話をするでもなく、唯じっと、何時までも何時までも私の手元を視詰めているばかりであった。

「――あああ! 僕の手もあんな風に動いたらなあ」

そして突然そんな風に云いながら、彼はぷいと席から立つのである。

「え!」

私は、何んのことかよくわからないので、そんな風に聞き返すのであった。

「僕の手だけが、何うしてこう、不器用に出来ているんだろう」

彼はそう、併し、独語のように云いながら、階上へ行って了うのであったが、それはおそらく、解剖のときに、自分の手が思うように動かないことを気に悩んでいたのに相違ない。